まだ終わらなかった5月3日のこと。
2001年5月4日5月3日木曜日、天気は雨。
その日の日記を更新し終えた俺は、いつものようにマルボロの赤丸に火を点け、それを軽く燻らしながら今月号の芸術新潮のページをめくっていた。友人たちの内定の話を聞き、まだ現実に向かい合えない自分に嫌気がさしていた。
すこし部屋の中に音が欲しくなったので、ミニコンポのリモコンを手にとりプレイボタンを押した。耳鳴りが気になるくらいの静寂が破られ、部屋の空気が振動する―――。
目を閉じて、体で震えを感じる。
どれくらい時間が経ったであろうか。
オウテカ(注1)のLP5の音を遮るように、携帯電話の呼び出し音が部屋に響く。電話はこちらの都合を考えてはくれないようだ。ICQのように相手の状況が携帯電話で確認できるとしたら、今俺は“Occupied”モードだったろうに。
着信通知表示には良く知った名前が出ている。何か用事があってのことか、仕方ない、電話の通話ボタンを押した。
いつものように寝起きさながらの声で電話に応答したが、友人の異変に気がつくのに時間はいらなかった。
「早く来てくれ! マズイことになった!!」
言い終わるより早く、彼の悲鳴が電波となり伝わる。何か崩れ落ちるような物音がした後、僅かだが間があいた。男達の声が遠くに聞こえる。彼らの声が近づいたと思った次の瞬間、
「君は今どこだ?」
知らない男の声が俺の耳に届く。誰だ、コイツら・・・。俺は自分の狼狽を相手に悟られないように、一呼吸おいて口を開いた。
「人にものを尋ねるときは自分から名乗るが筋だろ?」
「私たちが名乗る必要はない。君の名は既に分かっているが、君の名前には興味がない。ただ私たちが知りたいのは、君が今いる場所、それだけだ。」
これだけの僅かな言葉で、背中に嫌な感覚が走るのを感じた。さらに言葉が続く。
「君は今何処にいる?」
もう一度深く息をすった。
「まずお前たちが何処にいるか教えるべきじゃないか?」
「君の質問に答える必要はない。次が最後だ。君は今何処にいる?」
何よりも友の安否が気になる。向こうは俺の場所に興味があることは確かだ。だが、コイツらのことを全く知らないままに俺の場所を伝えては分が悪すぎる。
一つだけ確かなことはコイツらも友人も外にいるであろう、ということだ。部屋の中にしては雑音が多すぎる。外であるということは、こちらから相手の場所を特定することは非常に困難だ。どこかの路地である可能性が高い。
コイツラの言葉に気圧される自分がいるが、コイツラは俺の居場所を知りたがっている。それは間違いない。そしてそれ以外は必要としていない。
電話を持っていない右手の拳を軽く握り締めた。
俺は一言、
「教えない」
と告げ、電話を切った。
落ち着く暇はなかった。相手が俺の名と電話番号を知っているのは明らかだが、俺の部屋を特定し駆けつけるまでにはまだ時間が多少あるだろう。
俺が狙われているのは疑いがなかった。心当たりもある。俺に友人から電話がかかってきたのは、たまたまではない。必然だった。
俺は身支度を済ませ、関係があると思われる友人たちに事の顛末を記したメールを送信した。
送信終了を確認し、アレを持って部屋を出た、きっと必要になるだろうから。
というのは全てウソで、生茶キャンディを舌の上で転がしながら「うたばん(華原朋美がでてたので、4月30日の当日記参照)」をホゲ〜ッと見てたところ、プロジェクターでゲームをするというブルジョワな友人から電話。スマッシュブラザーズ(注2)やるから来いよ、とのこと。雨も小降りになったことだし、ゲームをやりにお出かけしました。(言っておきますが僕は大学生です)
それも今まで・・・、12時間以上?
***
注1:オウテカ
ショーン・ブースとロブ・ブラウンの二人によるテクノユニット。彼らの作る音楽はアンビエントテクノ、リスニングテクノ、ベットルームテクノ、音響系、ミニマルテクノと様々な呼び方をされるが、一言で言えばエレクトロニカである。1990年代前半のリスニングテクノの隆盛とともに脚光を浴び、それ以降のエレクトロサウンドに多大なる影響を与える。近年レディオヘッドやトータスらがその名を口にすることで、再び注目を浴び始めている。(文章下手が露呈。注の中に注が必要な説明です・・・)
注2:スマッシュブラザーズ
1999年1月21日発売のニンテンドー64用ゲーム。ピカチュウ、カービー、マリオなど小学生にはたまらない任天堂キャラクターが総登場し、いわゆる殴り合いをする対戦ゲーム。この対戦には金銭が絡むことが多々あり、友人関係を破綻させるゲームの一つとして名高い。もちろん発売は世界一立派な会社案内を送付してくれることで有名な任天堂。
その日の日記を更新し終えた俺は、いつものようにマルボロの赤丸に火を点け、それを軽く燻らしながら今月号の芸術新潮のページをめくっていた。友人たちの内定の話を聞き、まだ現実に向かい合えない自分に嫌気がさしていた。
すこし部屋の中に音が欲しくなったので、ミニコンポのリモコンを手にとりプレイボタンを押した。耳鳴りが気になるくらいの静寂が破られ、部屋の空気が振動する―――。
目を閉じて、体で震えを感じる。
どれくらい時間が経ったであろうか。
オウテカ(注1)のLP5の音を遮るように、携帯電話の呼び出し音が部屋に響く。電話はこちらの都合を考えてはくれないようだ。ICQのように相手の状況が携帯電話で確認できるとしたら、今俺は“Occupied”モードだったろうに。
着信通知表示には良く知った名前が出ている。何か用事があってのことか、仕方ない、電話の通話ボタンを押した。
いつものように寝起きさながらの声で電話に応答したが、友人の異変に気がつくのに時間はいらなかった。
「早く来てくれ! マズイことになった!!」
言い終わるより早く、彼の悲鳴が電波となり伝わる。何か崩れ落ちるような物音がした後、僅かだが間があいた。男達の声が遠くに聞こえる。彼らの声が近づいたと思った次の瞬間、
「君は今どこだ?」
知らない男の声が俺の耳に届く。誰だ、コイツら・・・。俺は自分の狼狽を相手に悟られないように、一呼吸おいて口を開いた。
「人にものを尋ねるときは自分から名乗るが筋だろ?」
「私たちが名乗る必要はない。君の名は既に分かっているが、君の名前には興味がない。ただ私たちが知りたいのは、君が今いる場所、それだけだ。」
これだけの僅かな言葉で、背中に嫌な感覚が走るのを感じた。さらに言葉が続く。
「君は今何処にいる?」
もう一度深く息をすった。
「まずお前たちが何処にいるか教えるべきじゃないか?」
「君の質問に答える必要はない。次が最後だ。君は今何処にいる?」
何よりも友の安否が気になる。向こうは俺の場所に興味があることは確かだ。だが、コイツらのことを全く知らないままに俺の場所を伝えては分が悪すぎる。
一つだけ確かなことはコイツらも友人も外にいるであろう、ということだ。部屋の中にしては雑音が多すぎる。外であるということは、こちらから相手の場所を特定することは非常に困難だ。どこかの路地である可能性が高い。
コイツラの言葉に気圧される自分がいるが、コイツラは俺の居場所を知りたがっている。それは間違いない。そしてそれ以外は必要としていない。
電話を持っていない右手の拳を軽く握り締めた。
俺は一言、
「教えない」
と告げ、電話を切った。
落ち着く暇はなかった。相手が俺の名と電話番号を知っているのは明らかだが、俺の部屋を特定し駆けつけるまでにはまだ時間が多少あるだろう。
俺が狙われているのは疑いがなかった。心当たりもある。俺に友人から電話がかかってきたのは、たまたまではない。必然だった。
俺は身支度を済ませ、関係があると思われる友人たちに事の顛末を記したメールを送信した。
送信終了を確認し、アレを持って部屋を出た、きっと必要になるだろうから。
というのは全てウソで、生茶キャンディを舌の上で転がしながら「うたばん(華原朋美がでてたので、4月30日の当日記参照)」をホゲ〜ッと見てたところ、プロジェクターでゲームをするというブルジョワな友人から電話。スマッシュブラザーズ(注2)やるから来いよ、とのこと。雨も小降りになったことだし、ゲームをやりにお出かけしました。(言っておきますが僕は大学生です)
それも今まで・・・、12時間以上?
***
注1:オウテカ
ショーン・ブースとロブ・ブラウンの二人によるテクノユニット。彼らの作る音楽はアンビエントテクノ、リスニングテクノ、ベットルームテクノ、音響系、ミニマルテクノと様々な呼び方をされるが、一言で言えばエレクトロニカである。1990年代前半のリスニングテクノの隆盛とともに脚光を浴び、それ以降のエレクトロサウンドに多大なる影響を与える。近年レディオヘッドやトータスらがその名を口にすることで、再び注目を浴び始めている。(文章下手が露呈。注の中に注が必要な説明です・・・)
注2:スマッシュブラザーズ
1999年1月21日発売のニンテンドー64用ゲーム。ピカチュウ、カービー、マリオなど小学生にはたまらない任天堂キャラクターが総登場し、いわゆる殴り合いをする対戦ゲーム。この対戦には金銭が絡むことが多々あり、友人関係を破綻させるゲームの一つとして名高い。もちろん発売は世界一立派な会社案内を送付してくれることで有名な任天堂。
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