先日 −その1−
2001年12月10日先日ある友人と行動を共にした。その彼は今度引越しをするという。何でも今住んでいるところが大学から離れていて、大学の近くに居を構えたいとのこと。住まい探しをする彼に僕は同行した。
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彼の友人の一人が渡りに船な話を持ってきてくれたのは数日前のことだった。その友人の知り合いが今ある部屋を11月中にも退去すると言うのだ。その人は彼と同じ大学で、なおかつ大学からも非常に近いところに住んでいる。
その部屋を訪れてみて損は無いだろう。何も手がかりの無いところから部屋を探していたのでは手間が掛かる。強制的にその部屋に入居させられる訳ではないのだから、とりあえず部屋を見て、それからそこに決めるかどうか判断すれば良い。
彼がそんな風に考えたのかどうか僕は知らないし想像するほかないのだが、結果として彼(と僕)はその部屋を訪れることにした。その部屋を訪れるためにその部屋の主とアポイントメントをとり、大学の正門で待ち合わせることにする。
僕は彼に付き従う。ごく自然の流れとして。僕にしてみれば、どうせ理由も目的も無い一日である。迷惑な邪魔者かもしれないが、一緒に部屋を下見したくなった。
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この街は道が広い。その広さには圧倒される。車が多い。そして空気は乾燥している。
だがその日は前日夜の雨のためかそれまでの埃っぽさが和らぎ、いくぶん過ごし易かった。前日より少しだけ朝冷えしたその日は大学の正門に行くことから始まった。といっても、もう昼近かったが。
彼と僕は大学の正門を目指す。少し待ち合わせの時間に遅れる。
僕の大学とは比べ物にならないくらい巨大なロータリーと正門。そこにタクシーで乗りつけた僕たちは、会うべき人の姿をすぐに確認することが出来た。時間のせいか、やたら広い正門には驚くほど人影は少なく、なおかつ正門で突っ立ている人間なんてその人だけだった。
正門で待っていたのは、女性、というよりも女の子だった。20歳くらいだろうか。小柄でアディダスのウィンドブレーカーにアディダスのスニーカーを履いている。その娘も僕たちの姿を確認し駆け寄ってくる。お互い軽く自己紹介などをしながら、どうして僕がここいるのかを友人が彼女に説明する。僕はただ付いてきただけなので、説明もクソもないのだが。
大学の正門から歩いて10分もしただろうか。下町の雰囲気を帯びた街並みに入る。さらに細かい路地を奥に進む。そこにはマンションの一室を一部屋ずつ区切り、共同で生活することが出来る下宿所があった。まず玄関で靴を脱ぐ。マンションの玄関だ。そこから彼女の部屋まで共同の廊下を歩き、鍵の掛かった扉を開けて部屋を一望する。
お世辞にも広いとは言えない部屋だが、住んでいるのが女性であるからか、綺麗に整頓されていて、それほど窮屈さは感じさせない。
扉を開けると対角線上のコーナーには小型のテレビ台が置かれ、その上にはテレビや炊飯器、コスメ品などが無造作に置かれている。
入ってすぐの左側の壁にはコートなどが掛けられていて、右側には机がある。机の上は教科書やらファッション雑誌やらが置かれていて雑然としていた。
部屋の真中に鎮座していた卓袱台を三人で囲み、彼女が彼にこの部屋の説明を始めた。
電気はココからとるのだとか、大家は上に住んでいるとか、事務的な会話を続ける。彼女のちょっと人とは違う雰囲気に戸惑いながら、彼と僕は此見よがしに頷いて話を促した。
<続く(かも)>
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